今回は、オーディオ機器におけるFPGA技術の重要性とその驚異的な性能について深掘りしていきます。FPGAは多くの高性能オーディオ機器の核心に位置する技術です。その魅力を紐解いていきましょう。
FPGAを巡る
「鶏が先か、卵が先か」という因果性のジレンマがあるように、ESS9018、AK4497、CS43198といった高級SIGMA-DELTA構造の親は何かという問いに対して、私たちLUXURY&PRECISIONは、はっきりとこう答えます。これらの親は全て『FPGA』なのです。
FPGAとは何ですか?
FPGAの正式名称は「Field-Programmable Gate Array」。日本語にすると「構成を設定できる集積回路」です。FPGAはほとんどのデジタルロジックチップの機能をシミュレーションできる「万能デジタルチップ」として知られています。
品質の違いもありますが、品質の良いFPGAは内部の「パーツ」や「付属品」の種類が豊富で、組み合わせて作れるデジタルチップの規模や種類も多岐にわたります。
デジタルチップの元祖
FPGAは1980年代に誕生し、すぐにデジタルチップ開発の必需品となりました。FPGAが登場する前は、デジタルチップの開発は直接ウェハー工場で生産するしかなく、設計段階で問題が発見されると大量の廃棄品から問題を探し出す必要がありました。当然問題が解決できず無駄なコストにしかならないこともありました。しかし、FPGAを採用すると、開発の流れが大幅に簡素化され、生産前にシミュレーションを行うことで、ほとんどの問題を解決できるようになりました。
INTELなどの大手チップ会社も、CPUやGPUなどの複雑なチップを設計する際に、まずFPGAでシミュレーションを行い、問題がなければウェハー工場で生産しています。FPGA開発システムは数百万ドルから数千万ドルと高額ですが、各チップ開発会社は昔からFPGAに依存して設計を続けています。
二つの大手企業
現在のFPGA市場では、FPGAはまさに「時代の寵児」となっています。FPGAチップは並列構造で、リアルタイムでプログラム可能です。現在のAI時代において、並列計算が主流となる中、FPGAの勢いは止まりません。
元々、FPGA市場には二つの大手企業がありました。一つはXILINX、もう一つはALTERAです。この二つの企業が市場の90%以上を占有してきました。CPU市場の王者であるINTELはFPGAの将来性を信じ、ALTERAを買収しました。これにより、INTELもFPGA市場の大手企業となりました。
IFTD
APPLEやINTELなどの大手企業は、毎年恒例の技術者フォーラムを開催しています。たくさんの人が集まり、業界のトレンドを語ったり、製品を展示したりするイベントです。例えば、IDF(INTEL DEVELOPER FORUM)やAPPLEのWDC(Worldwide Developers Conference)などがあります。現在、INTELはFPGAにも注力しており、IFTD(INTEL FPGA TECHNOLOGY DAY)も誕生しました。これはFPGA開発者たちの技術イベントです。今年、私たちLUXURY&PRECISIONも招待され、FPGAの最新動向をチェックし、貴重な経験を得ることができました。(2018年9月21日開催)
FPGAとオーディオ機器
前回の「FPGAを巡る」では、FPGAの概要についてお伝えしました。今回はFPGAとオーディオ機器についてお話しします。
300億を超えるトランジスタ数 ー 最高級サーバーCPUの3倍
最もトランジスタを使用しているチップは何でしょうか?多くの人は最高級サーバーCPUと答えるでしょう。CPUのコア数は数十個に及び、約100億個のトランジスタが含まれています。しかし、最高級のFPGAと比べるとその数は小さなものです。INTEL STRATIX 10 FPGAには300億個のトランジスタがあり、これはサーバーCPUの2倍から3倍に相当します。さらに、最新のFPGAには何百万ものLUT(Look-Up Table)が含まれているだけでなく、16GBのHBM2高帯域メモリ、4コアのARM Cortex A53、数十個の58Gbps高速PAM4トランシーバーなど、多くのハードウェアも搭載されています。FPGAこそが真のトランジスタモンスターです。
9兆2000億回の浮動小数点演算能力 ー 最強DSPの50倍
先ほどみなさんにトランジスタの王者について理解していただきましたが、FPGAを応用すべき根拠となる話は続きます。現在、浮動小数点演算能力で最も優れているチップは何でしょうか? 多くの人はDSP(デジタル信号プロセッサ)と答えるでしょう。DSPは浮動小数点演算が専門です。TIのTMS3206678は現在最も優れたDSPで、8つのDSPコアを持ち、シングルコアの周波数は1.4GHz、浮動小数点演算能力は224GFLOPsに達します。しかし、この能力もFPGAの前では小さなものです。FPGAは並列計算により何千個ものDSPブロックを持つことができ、最新のFPGA STRATIX 10のピーク演算速度は9.2TFLOPS(9兆2000億回)であり、最強のDSPの約50倍です。
オーディオ機器における影響
内部に数多くのトランジスタを持ち、浮動小数点演算能力に優れたDSPブロックを並列に多数配置できるFPGAは、非常に高精度なデジタル信号処理が可能となり、オーディオ信号のノイズリダクション、エコーキャンセレーション、イコライゼーションなどの複雑な処理を、遥かに効率的に行えます。並列計算能力の高さは複数の音声エフェクトの同時適用という高度な処理や、リアルタイムの音声データ処理を圧倒的速度で行うことを可能とするため高精度な音質再現に適しているのです。
またFPGAはフィールドプログラム可能であり、製品出荷後もファームウェアのアップデートを通じて新機能を追加したり、性能を向上させたりすることができます。
中国FPGAメーカーの現状 ー 唯一の問題点はソフトウェア
現在、中国製チップは注目の話題です。中国のFPGAメーカーには、高雲、AGM、智多晶、安路、国微などがあります。国微は中国の国有企業のように資金力が豊富で、紫光集団も支援しています。他のメーカーは小型チップを主に製造し、中国市場に対応しています。
ラオワン(L&Pチーフエンジニア)が最も惜しんでいるのは、現在運営を停止している京微雅格です。このメーカーの商品には多くのLUXがあり、300MHzのCortex M3と多くのインターフェースを備えた便利なFPGAがありました。開発の初期段階から実際に使用できるまで、私たちは2年間シミュレーションを行いました。しかし、完成品に使用する前に京微雅格がなくなったため、その計画は頓挫しました。ラオワンは「もし今も京微雅格が存在していたら、状況は大きく変わっていただろう」と惜しんでいます。
(2018年執筆)
※編集者説明あり